建物の保守管理の高度化/建物の健全性の評価

近年、さまざまな環境的配慮などから、建物の長寿命化を図ろうとする動きがある。これに伴い、建物の長期的な維持管理が課題になっている。建物構造は、非構造部材や建物設備に比べて比較的長い期間の使用に耐えると思われるが、今後、建物の長期的維持管理が一般的になった場合、日常の維持管理の一環として建物構造の継続的性能評価が求められるようになる可能性がある。地震多発地帯である日本においては、地震が建物構造の性能に最も影響を与える「外乱」であると思われることに議論の余地はないであろう。ここに、建物構造の長期的維持管理において、建物強震観測が大きな役割を果たすことができる可能性が存在する。

建物はその供用期間においてさまざまな大きさの地震に遭遇することが予想されるが、地震後に建物構造性能が劣化していないか評価を行う、いわゆる健全性評価のために建物強震観測が活用できると思われる。

このような、建物構造の健全性評価技術として、「構造ヘルスモニタリング」に関する研究が最近盛んに行われている。建物強震観測と構造ヘルスモニタリングには類似点もあるが、基本的には目的を異にするものである。すなわち、建物強震観測が地震時における建物の挙動を正確に記録することに主目的があるのに対して、構造ヘルスモニタリングは建物構造に生じた構造被害を把握することに主目的がある。また、構造ヘルスモニタリングにおいては、地震時のみならず、劣化のような長期的性能の変化も対象とする場合がある。

一方、目的は異なってはいるものの、建物強震観測と構造ヘルスモニタリングでは、用いる装置に共通点があることが多い。つまり、構造ヘルスモニタリングにおいては、建物に取付けた地震計のデータに基づき損傷の判定を行おうという手法が少なからず見受けられる。つまり、建物強震観測装置を活用することで、構造ヘルスモニタリング、すなわち建物の健全性評価を行うことができる可能性がある。

建物強震観測の歴史は古いが、構造ヘルスモニタリングは普及へ程遠いのが現状である。今後、建物強震観測で得られた成果が構造ヘルスモニタリング分野に活用されるなど、双方の協力関係が進展することに期待したい。

(中村)

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Last-modified: 2013-05-14 (火) 10:44:06 (4005d)