強震計の時刻校正

強震計(地震観測装置)には時計が内蔵されている。時計の役割は2つある。一つは、ペースメーカーとして観測データのサンプリング間隔を保つこと。もう一つは、観測データに時刻情報を与え、他の地震計の記録と対比できるようにすることである。

 振動特性(例えば卓越周期)の把握を目的とした単点観測や、ケーブルを引き回して複数地点の観測を同一収録装置で観測する場合には、収録装置の時計の時刻ずれは問題とはならない。しかし、複数の収録装置を用いてアレイ観測を行う場合は、時刻精度は重要な問題である。時刻ずれがある場合、複数の収録装置で観測された地震記録の対比が困難となり、振幅の空間変化、波動の伝播速度などについて間違った情報を導く原因となる。そのため、強震計には時刻精度を保つための時刻校正装置が備わっている。

 近年の強震計では、GPS信号の時刻情報を取り出し、それを基に強震計内の時計を校正するタイプが主流である。GPS衛星の時刻情報は、原子時計に基づいており、非常に精度が高いと考えられる。ただし、使われているGPS受信機によっては、長期間の観測に伴いGPS衛星の時刻システムに起因する時刻のロールオーバー(*1)に悩まされる場合もある。また、衛星電波の受信が必須のため空の開けた建物外部にアンテナを出す必要があることに留意する必要がある。

 GPSによる時刻校正が普及する前は、ラジオの時報情報を用いて時計を校正するシステムが標準であった。これは、時報で0秒に時刻を合わせるシステムのため、時計が30秒以上大きくずれると合わせきれず、人の手で補正する必要があった。なお、ラジオの受信状態をよくするには外部にアンテナを張る必要があるが、ラジオ放送自体がGPSの電波に比べて長波長の電波を用いているため屋内でも受信可能の場合が多い。なお、最近は、電波時計と同様に標準電波JJY(*2)を受信して時刻校正するタイプもあるが、普及していないようである。

 また、最近の強震観測装置はIPネットワークに接続されるケースが多くなっている。IPネットワークが使える場合には、ネットワーク経由でNTPサーバー(*3)から時刻情報を入手して時刻校正を行うものもある。

*1 ロールオーバー

 GPS受信機はGPS衛星信号に含まれる週番号を基準に日付を算出しています。衛星信号の週番号は0週から始まり1023週目までで一杯となり、1024週目(19.6年後)に0週にリセットされます。そのため、GPS受信機内部の時計の時刻がリセットされ、日付の誤表示が発生することがあります。この現象をロールオーバーと呼んでおります。 症状  観測日が1996年X月として観測データにで記録されるため、観測手簿等に出力した日付も1996年X月となります。 (国土地理院:https://psgsv2.gsi.go.jp/koukyou/public/news/rollover.html )

*2 標準電波JJY

 標準電波JJYは、時間と周波数の標準、並びに協定世界時(UTC)に基づく日本標準時(JST)を広く国の内外にお知らせするために、情報通信研究機構で運用している電波です。長波帯のJJYでは、時刻に関する情報としてタイムコードを送信しております。  送信する時間、周波数の標準と標準時の信号は、当所の維持する国家標準により常に高い精度に保たれています。  国家標準としては、セシウムビーム型原子周波数標準器をはじめ、水素メーザ型や実用セシウムビーム型原子時計群が用いられ、得られる正確さは 1x10-13の桁に達し、さらに人工衛星などを使った国際時刻比較により、常に国際標準との同期及び諸外国の標準との関係も確かめられております。  このように正確な信号を送信しておりますが、受信される電波は電離層の影響などで精度が低下します。電離層の影響を受けにくい長波の標準電波では、24時間の周波数比較平均値で1x10-11の精度を得ることができます。 (情報通信研究機構日本標準時グループ:http://jjy.nict.go.jp/jjy/trans/index.html

*3 NTPサーバ 【 Network Time Protocol server 】 Timeサーバ / タイムサーバ / 時刻サーバ

 NTPサーバとは、NTP(Network Time Protocol)で現在時刻のデータを配信しているサーバ。  一種の時報にあたる情報を配信しているサーバで、パソコンなどからNTPクライアントでアクセスするとそのコンピュータの内蔵時計を正しい現在時刻に調整することができる。インターネット上には通信事業者や研究機関などが公開しているNTPサーバがあり、誰でも自由に利用できる。  NTPサーバは階層構造を形成しており、最上位のNTPサーバは原子時計やGPSなどで自らの時計を正確に調整できる特殊な機材となっている。これらは安定的に運用するため一般には公開されていないことがほとんどであり、通常は上位のNTPサーバからのデータを元に自らの時計を調整した下位NTPサーバを利用する。 (IT用語辞典 e-Words:http://e-words.jp


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Last-modified: 2020-02-10 (月) 22:50:41 (1534d)