はじめに

強震計のカタログには、チラシレベルのものから家電製品のカタログレベルのものまであり、情報量はまちまちである。また、最近の強震計は、デジタル回路が占める比率が高くなっており、個体差が出にくくなる一方で、仕組みのブラックボックス化も進んでいる。
ここでは、カタログに記載されている基本的な情報と、そこから様々な情報を読み取るために役立つ知識(雑学)を紹介する。

カタログで用いられる用語

計測能力及び精度を表す言葉

  1. 周波数特性(周波数範囲と固有周期) 周波数特性は、数値で記載される場合、グラフで記載される場合、両方が記載される場合がある。
    強震計のカタログでは、地動加速度や地動速度に対してフラットな応答倍率を持つ範囲を周波数範囲と記載することが多く、その周波数範囲の前後における感度が半減する(-6dB)周波数を併せて記載することが一般的である。しかしながら、一部のカタログ類では、周波数範囲だけを数値で示し、その数値の意味するところがよくわからない場合がある。そのような場合には、減衰定数などの値から類推したり、購入前であればメーカーへの問い合わせ、購入後であればキャリブレーションシート、導入マニュアルなど他の情報とあわせて必要な情報を得る必要がある。
  2. ダイナミックレンジとS/N比 厳密には正確な表現ではないが、大雑把にダイナミクレンジとは計測できる最小の信号と最大の信号の比、S/N比とは最大の信号と雑音との比である。通常はどちらも対数軸上で表現され、単位はdB(デシベル)である。カタログ上では、換振器(センサー)に対して用いられたり、収録装置に対して用いられたり、システム全体に対して用いられたりする場合があり、何についての性能の表記なのかは、注意が必要である。
  3. その他の特性

振動変換に関連して用いられる言葉

  1. 振り子の位置を制御する方式 ごく初期の強震計では、振り子の長さや錘の重さによって、測定できる周期帯や振幅範囲が限られてしまう。そのため、バネや電気的な処理によって錘に力を加えて、小さな地面の揺れに対してはより高感度に、大きな揺れに対しては低感度になるようなく風が積み重ねられてきた。
    1. 負帰還方式
      振り子に加わる力が大きくなるほど、振り子を動き難くなるよう電気的に力を加える(負帰還:ネガティブフィードバックする)ことによって、ダイナミックレンジを広げることを可能にする制御方式である。振り子の動きに応じて自動で制御する機構(サーボ機構)を持つことから、サーボ型と記載されていたり、振り子の動きを帰還させて制御することからフィードバック型と記載されていたりする。
      振り子の動きに対してどのような力を加えるのかによって、P(比例)制御、PID(比例/積分/微分)制御などがあり、多くの強震計は振り子の変位をそのまま帰還させるP制御による加速度計である。
    2. バネ 強震計に用いられる振り子には、おもりを支えるバネとして金属のコイルばね、板バネが一般的に用いられており、巻きバネや渦巻きバネが用いられることは少ない。
  2. 振り子の位置を検出する方式
    1. 動コイル型
    2. 静電容量型
    3. ピエゾ抵抗型
    4. ファイバセンサ
    5. レーザードップラー方式など

収録方式を示す言葉

  • 収録方式には、ペン書き、煤書き、光学記録、電磁式(アナログ、PCM)などがかつては存在していたが、ここでは最近のデジタル方式に関してのみ記載する
  1. A/D方式
    アナログの電気信号に変換された振動は、A/D変換器によってデジタル信号に置き換えられる。 A/D変換方式には、並列比較方式、逐次比較方式、パイプライン方式、二重積分方式など幾つかの種類があり、分解能やサンプリング速度、変換精度などに特徴がある。信号処理の世界では、強震計など地震観測は低周波計測の範疇であり、一般的には処理速度よりも精度・分解能が優先される。
    強震計に用いられているA/D変換方式には、大きく分けて2つのタイプであり、主に16ビット以下の分解能に使用されるのが逐次比較方式、24ビットなどの高分解能のA/D変換には、主にΔΣ変調方式が用いられている。強震計のカタログに記載されている収録装置に関する情報は、A/D変換の仕組みをある程度理解しているとわかりやすい。
    以下に、逐次比較方式とΔΣ変調方式の特徴を簡単に説明する。
    1. 逐次比較方式
      逐次比較方式は、入力された信号の電圧と基準電圧とを1ビットずつ比較して、信号電圧のデジタル値を確定し、その処理をマルチプレクサと呼ばれる切替器でチャンネルを切り替えながら繰り返す方式である。そのため、チャンネル間の時刻に誤差が生じることから、高速(例えば500Hz以上)サンプリングにはあまり向いていない。
      情報量の豊富なカタログでは、時刻精度1ミリ秒前後の値が記載されている。
      AD7699_fbL.png
    2. ΔΣ変調方式
      ΔΣ変調方式(デルタシグマ方式)は、1ビットの変換器を超高速でサンプリングすることによって、擬似的に多ビットの変換器を実現しているもので、
  2. 収録媒体など

収録装置と換振装置(センサー)の組み合わせ

  • 導入コストの観点から様々な装置を使いまわしたり、中古の強震計から健全なパーツを取り出して組み合わせて使う場合、異なるメーカーのセンサーと収録装置を組み合わせるなど、メーカーの推奨とはことなる組み合わせで使いたい場合がある。 そのような使い方の場合、センサー出力と入力のマッチングにいくつかの留意事項がある。
    サーボ型の強震計は一般的に、センサー出力の抵抗(あるいはインピーダンス)は数百〜数キロΩに設定されている。一方、多くの収録装置はメガΩ以上の入力インピーダンスを持っている。入出力の抵抗にこれくらいの差があれば、センサーが地動振幅と比例した電圧を出力する特性を持っている限り、信号に電流が乗って悪影響を及ぼすことはほぼない。センサー部と収録部が別々に販売されている機器のカタログには、入出力抵抗あるいは、インピーダンス値が記載されているので参照されたい。
    一方、サーボ型ではない一部の動コイル型のセンサーは、地動に比例した電流出力を持っていたり、電圧に比例していても出力電流が大きく安定していない場合がある。その場合は、収録機の入力前段にシャント抵抗(分流器)を置くことで、安定した電圧出力を得ることができる。
    なお、高精度-低雑音の信号を得るために、入力インピーダンスを低く(100Ω程度)設定した機器も存在している。この場合、センサー出力側とのインピーダンス整合が重要であり、一般的な強震観測の場合にこのような機器を利用するチャレンジはあまり推奨できない。

その他の指標

M_{g}\theta-M_{n}\dot{\theta}=M(l\ddot\theta+u\ddot\theta)
(佐々木)

添付ファイル: fileAD7699_fbL.png 1170件 [詳細]

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Last-modified: 2013-10-10 (木) 18:01:01 (3851d)