超高層建物

大阪平野に建つ複数の超高層建物について、2004年9月紀伊半島南東沖の地震の観測記録に基づく剛性(固有周期)と減衰定数の評価を行った事例を紹介する。

観測記録の概要

 分析に用いた地震は上述の一連の地震の内、本震(発震時刻2004/09/05 23:57:16.9、Mj7.4)と前震(発震時刻2004/09/05 19:07:07.5、Mj6.9)の2つである。図1に示す各建物の固有周期(設計値)は、建物EにおいてSR(スウェイ・ロッキング)モデルの値を、それ以外の建物においては基礎固定モデルの値を表している。建物B,Cは風揺れ低減のためのマスダンパー系の制震装置が取り付けられているが、継続時間初期において何れの建物も制震装置がロック状態となっていた。従って、諸パラメターの評価上、重要となる1次モードが支配的となりかつ最上階において最大振幅が生じる時間帯においては制震装置の影響はないものと考えられる。

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                                 図1 軒高さと固有周期の関係

入力地震動と応答の関係

 図2は本震による各建物の固有周期と最上階の加速度及び速度の最大応答値の関係を示す。図3は建物1階に対する最上階のフーリエスペクトル比(0.1〜1Hz)を示す。この周波数帯域において1次及び2次の共振周波数が明瞭に見られる。図4(a),(b)は、建物BとEの1階の観測波形(入力動)および,そのランニングスペクトル(コンター図)と最上階の観測波形を示す。コンター図中の破線は設計用固有周波数を示す。両建物共に、固有周波数とほぼ同じ帯域にパワーを持つ継続時間が長い入力地震動によって、最上階において共振による長い継続時間を持つ大きな振幅が見られる。

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                                 図2 最大応答値と固有周期の関係

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                     図3 建物1階に対する最上階の増幅率

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                                 図4 建物B,Eの入力波のランニングスペクトルと応答波形

固有周期と減衰定数の経時変化

 振動パラメターの同定はARXモデル3)によって求めた。諸パラメターの経時変化を調べるため、各建物の設計用固有周期の10倍の時間ウインドウを分析区間とし4秒毎にシフトさせた。両推定手法に共通して,1階の記録を入力、最上階の記録を出力として,梁間(B)および桁行(G)方向それぞれについて推定を行った(1入力1出力)。入出力データに対して、図3の1次共振曲線のピーク及びテールの部分を透過周波数帯域とするバンドパスフィルター処理を行った。   図5左側は固有周期の経時変化と振幅の包絡形を示す(建物C,D,EはB方向のみ示す)。全ての建物,両方向に共通して固有周期は変位振幅の増加と共に伸長し,波形後半部の振幅の減少に従って初期の固有周期に戻る傾向が見られる。図5右側は各建物のB方向に対する減衰定数の経時変化と速度振幅の包絡形の関係を示す。減衰定数と速度振幅の関係に着目すると,建物Bの80〜180秒と建物Dの40〜140秒において振幅の増加と共に減衰定数の増加が見られる。建物Cの約100秒までの減衰定数の大きな変動は前述の制震装置の駆動により構造体の減衰定数の同定が正確に行えなかったことが原因と考えられる。なお、ここで示した振動パラメターの同定手法以外に、質点系振動モデルによる力と変位の関係に基づく方法4)や減衰定数同定において、消費エネルギー率に基づく方法5)などがある。

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                        図5 固有周期と減衰定数の経時変化と波形包絡曲線

固有周期と減衰定数の変動

 図6左側は同定された固有周期を設計用固有周期で基準化し,継続時間におけるその変動量と層間変形角の関係を示したものである。この変動量を本震と前震について求め,変動量の上・下限値どうしを破線で結んでいる。何れの建物および震動方向に共通して、本震の方が前震より層間変形角が大きく、また前震より本震の変動幅が大きい。センターシンボルで示した固有周期の平均値は建物Cを除き、設計値よりも短くなっている。

 図6右側は継続時間における減衰定数の変動に対する平均値と標準偏差を示す。図より,架構形式がG方向及びB方向が同じであるRC造の建物Eを除き,S造ではB方向の方がG方向に比べて減衰定数が小さく,架構法の違いが減衰に影響しているものと思われる。さらに,変動量を考慮しても,減衰定数は設計用の値よりも(建物CのG方向を除き)同定結果の方が小さくなっている。

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                                           図6 固有周期のと減衰定数の変動量

参考文献

  1. 関西地震観測研究協議会,http://www.ceorka.org/
  2. 上林宏敏,大西良広,林康裕、2004年9月紀伊半島南東沖地震の観測記録に基づく大阪平野の超高層建築物の振動特性,建築学会技術報告集, 第31号,pp.679-684, 2009.10.
  3. 斎藤知生,モード解析型多入力多出力ARXモデルを用いた高層建物のシステム同定,建築学会構造系論文集,第508号, pp.47-54, 1998.6
  4. 中村充,安井謙,微動測定に基づく地震被災鉄骨建物の層損傷評価,建築学会構造系論文集No.517,pp.61-68,1999.3
  5. 柴田明徳,最新耐震構造解析,森北出版,pp.45-48,1985
  6. 林康裕,上林宏敏,澤田純男,高橋良和,東南海・南海地震時に想定される大阪平野およびその周辺域における長周期構造物の応答評価ワーキンググループ(長周期応答WG)の活動について,地震防災フォーラム’05, 関西地震観測研究協議会, pp.59-65, 2006.1

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