フーリエスペクトル解析

(フーリエ)スペクトル解析は,ランダムデータから有用なシグナルを抽出するために,地震記録の分析においても頻繁に使われる基本的な解析手法である.通常の地震観測記録は,揺れの振幅の時間変化を記録するいわゆる時系列データであるが,地盤や建築構造物はある特定の周期(固有周期)の地震動を増幅させる特徴があることから,時系列波形データを周期ごとの振幅,すなわちスペクトルに分解することにより,地盤の増幅特性や構造物の応答特性を明らかにすることができる.また地盤や建物に対する入力としての地震動は,震源断層のせん断すべり運動によって発生し,地表に伝播したものであるが,こうした入力地震動に対するスペクトル解析によって,震源の破壊過程や伝播経路における減衰特性の解明が期待される.

1. フーリエスペクトル

1.1 フーリエ級数

時間tの関数x(t)が区間\left[-T/2,T/2\right]を基本とする任意の周期Tの関数であるとき,次式のように三角関数\cos \frac{2n\pi t}{T}\sin \frac{2n\pi t}{T}の線形和で級数展開することができる.

x(t)\sim \frac{a_0}{2}+\sum_{n=1}^\infty \left( a_n\cos\frac{2n\pi t}{T}+b_n\sin\frac{2n\pi t}{T} \right)

このとき,右辺の級数をフーリエ級数またはフーリエ展開,その係数a_n, b_nをフーリエ係数と呼ぶ.フーリエ係数は次式により求められる.

a_n=\frac{2}{T} \int_{-T/2}^{T/2}x(t)\cos\frac{2n\pi t}{T}dt \\ b_n=\frac{2}{T} \int_{-T/2}^{T/2}x(t)\sin\frac{2n\pi t}{T}dt

なおこのとき,関数\cos\frac{2n\pi t}{T}\sin\frac{2n\pi t}{T}は直交関数列であり,次のような特徴を持つ.

\begin{align} \int_{-T/2}^{T/2}\cos\frac{2m\pi t}{T}\cos\frac{2n\pi t}{T}dt =\int_{-T/2}^{T/2}\sin\frac{2m\pi t}{T}\sin\frac{2n\pi t}{T}dt &=0 (m \neq n) \\ &=T/2 (m=n) \end{align}

さらにm=nのときの積分値を1に正規化すると(この場合は係数\sqrt{2/T}を乗じる)正規直交関数列となる.

三角関数を指数関数に置き換えることにより,次のように複素フーリエ級数が導かれる.

x(t)\sim \sum_{-\infty}^\infty c_ne^{i2\pi nt/T}\\ c_n=\frac{1}{T} \int_{-T/2}^{T/2}x(t)e^{-i2\pi nt/T}

1.2 フーリエ積分

複素フーリエ級数の周期区間を無限大とする極限を考えたとき,次の複素フーリエ積分が成り立つ.また,関数x(t)の無限積分が収束し(絶対積分可能であり),全区間で連続,かつ区分的に滑らかであるならば,フーリエ積分はもとの関数x(t)に一致する(フーリエの積分定理).

x(t)=\int_{-\infty}^{\infty}X(\omega)e^{i\omega t}d\omega \\ X(\omega)=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}x(t)e^{-i\omega t}dt

このとき,\omega=2\pi fは角周波数,fは周波数で周期Tの逆数である.

2.3 フーリエ振幅スペクトルと位相スペクトル,および位相差分スペクトル

複素フーリエ係数c_nやフーリエ成分X(\omega)は複素数であり,実数a_n, b_n,またはa(\omega), b(\omega)を用いて次式のように表すことができる.

c_n=a_n+ib_n=\sqrt{a_n^2+b_n^2} e^{i\theta_n}\\ \theta_n=\tan^{-1}(b_n/a_n)
X(\omega)=a(\omega)+ib(\omega)=\sqrt{a(\omega)^2+b(\omega)^2} e^{i\theta(\omega)}\\ \theta(\omega)=\tan^{-1}(b(\omega)/a(\omega))

このときの絶対値|X(\omega)|=\sqrt{a(\omega)^2+b(\omega)^2}はフーリエ振幅スペクトルを構成し,角周波数\omegaの波の振幅を表す.また偏角(位相角)\theta(\omega)は位相スペクトルを成す.x(t)が実数であるとき,|X(\omega)|=|X(-\omega)|\theta(\omega)=-\theta(-\omega)が成り立ち,x(t)は次式のような実数関数の積分として表現される.

x(t)=2\int_0^\infty|X(\omega)|\cos(\omega t+\theta(\omega))d\omega

上式は,任意の時系列データx(t)が,位相差\theta(\omega)で重なり合う振幅|X(\omega)|,周期T=2\pi/\omegaの余弦関数の群に分解されることを示している.

位相スペクトルに対して,隣り合う周波数の位相角の差(位相差分)の頻度分布を位相差分スペクトルと呼ぶ.位相差分は負の値,すなわち0から-2\piの間で定義される.地震波形記録のような非定常波の位相差分スペクトルは,元となった時系列データの包絡形状によく似ることが指摘されている.

3 自己相関関数とパワースペクトル

時間の関数x(t)に対し,自己相関関数C(\tau)は次式に示すような\tau時間離れた関数の積の平均値として定義される.

C(\tau)=E[x(t)x(t+\tau)]

定常確率過程の場合,上式は時間平均で置き換えられ,次のように時間ずれ\tauのみの関数となる.

\begin{align} C(\tau)&=\overline{x(t)x(t+\tau)}\\ &=\lim_{T \to \infty} \frac{1}{T} \int_{-T/2}^{T/2}x(t)x(t+\tau)dt \end{align}

4 相互相関関数とクロススペクトル,コヒーレンス

5 フーリエスペクトル比と伝達関数

参考文献 大崎順彦:新・地震動のスペクトル解析入門, 鹿島出版会 日野幹雄:スペクトル解析, 朝倉書店 秋山宏:建築物の耐震極限設計, 東京大学出版会


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