*地盤−杭(連壁)−建物系 [#ob4768d6]

 ウォータフロントの軟弱地盤に高層建物が建設されるようになり、長尺の杭や連壁を有する構造物が増えている。一方、強震時の地盤変位が杭基礎や連壁に及ぼす影響や、軟弱地盤の非線形性の影響など、地盤−杭−建物系の動的相互作用の解明すべき課題は多くあるが、地震観測事例は少なく、その実挙動は十分に把握されていない。

 地盤−杭−建物系の地震観測では、加速度計だけでなく、杭や連壁にひずみ計を設置して、変動軸力や曲げモーメントの分布を評価したり、液状化対象層に間隙水圧計を設置して水圧の経時変化を捉え、あるいは基礎底面や側面に土圧計を設置して土圧分布を測定するなど、様々な試みが行なわれている。

 ここでは、特徴的な地震観測の例を以下に2つ紹介する。

**軟弱地盤上の杭支持構造物の観測例 [#udf7cc3b]

-観測の目的・観測内容

--強震時に地盤変位の増幅が杭基礎に及ぼす影響の解明
--地盤−杭−建物の連成振動特性の把握

-建物概要・観測システム

--横浜市に位置する高さ46.6mのS造の事務所ビル(一部SRC造)で1989年から観測を実施している。
--地震計は図1に示すように地盤および建物に加速度計、2本の基礎杭に鉄筋計、地盤に間隙水圧計を配置している。基礎杭は場所打ちコンクリート杭(φ=1700mm、L=34.9m)である。
--地盤は図2に示すようにGL-40mまで軟弱な地盤N値が小さく、杭の深さ方向の6箇所に鉄筋計が設置されている。
--常時微動測定結果を表2におよび建物の振動モードを図3に示す。

-観測記録の例

--1990年2月20日伊豆大島近海地震の加速度、間隙水圧、杭ひずみ記録により分析を行い、建物のB1Fの加速度と杭のひずみのフーリエスペクトル特性および杭ひずみ分布の経時変化を分析している。(図4)
--杭の軸ひずみは建物コーナー部の杭で大きくなること、曲げひずみは杭頭部および杭先端部で大きく、杭中間部で小さくなることを示した。(図7)
--杭基礎の地震時ひずみは地盤振動と建物の慣性力によって発生し、地盤と建物の固有周期が近接する場合には、地盤−基礎系と建物の連成振動について十分な検討が必要であるとしている。

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[参考文献]

+清水勝美、田蔵隆、横田治彦、片岡俊一、佐武直紀:軟弱地盤に建設された高層の杭支持建物に対する地震観測、第25回土質工学研究発表会、pp.881-884、1990.

**埋込み構造物の地震時土圧の観測例 [#nf240645]

-観測の目的・観測内容

--原子力発電所の建屋地下外壁に作用する地震時土圧を評価する。

--埋め込みを有する建屋の相対変位挙動と地震時増分土圧の関係を実測的に把握する。

-建物概要・観測システム

--図−1に示すように、建屋は埋込まれて第三紀層の泥岩に支持され、表層には層厚12mの埋め戻し土が存在する。

--加速度計は建屋から水平方向に約180m、深さ方向に100mに渡り格子状に配置されており、地盤の動的挙動を2次元的に把握しようとしている。

--土圧計は、24mまで埋込まれた建屋の地下外壁の深さ方向に5箇所設置されている。

-観測記録の例

--土圧の分析は、1990年新潟県中部で発生した地震(M5.4、自由地盤地表面30.2gal)で分析を行なっている。地表近傍の相対変位(地盤および建屋の加速度記録の積分変位波形の差)と土圧波形の例を図−4に示す。土圧波形と相対変位波形はよく対応し、特に長周期成分の卓越している波形部分が良く対応する。

--また、相対変位および土圧のフーリエスペクトルを図−5に、最大相対変位および土圧分布を図−6に示す。相対変位と土圧のフーリエスペクトルは良く対応し、また、土圧分布は通常の常時土圧に見られる静水圧的な分布とは異なり、反対の分布形状となっている。これらの特徴は、地盤と構造物の相対変位挙動にともなって発生する地震時土圧性状の特徴をよく現している。

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[参考文献]

+広田昌憲、石村紀久雄、野嶋治、大宮幸男、鬼丸貞友:軟岩中に埋込まれた構造物に作用する土圧に関する研究 (その2)地震時土圧の観測概要と結果、日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.1361-1362、1991
+広田昌憲、石村紀久雄、杉本三千雄、阿部康彦、鬼丸貞友:軟岩中に埋込まれた構造物に作用する土圧に関する研究 (その3)地盤・建屋の相対変位挙動と地震時土圧、日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.1363-1364、1991

**地盤−杭−建物系の観測にあたっての留意点 [#wd182ade]
上記で紹介した事例のように、地盤−杭−建物系の地震観測では、通常の加速度の他に、ひずみ計や間隙水圧計、土圧計などの設置が行なわれる場合がある。これらの計測計は、加速度計に比べて、i) 施工管理が要求される、ii) 耐久性に問題がある、iii) メンテナンスが困難、iv) 分析の手間、などの課題が挙げられる。

 特に、杭の鉄筋計では防湿処理などの養生を確実にすることや、間隙水圧計では設置孔のスライム処理、脱気処理、目詰まり対策などの埋設時の施工管理が重要であり、熟練した設置業者を選択することが肝心である。また、これらの計測計は設置後の交換は困難であることから、可能であればひずみゲージをあらかじめ余分に貼っておくことや、一部欠測した場合のデータ処理方法などを検討しておくことが望ましい。

 また、建物の施工段階による静的変化(施工段階による荷重変化や温度による日変化・季節変化など)も計測可能なので、静的な初期値からの変化量を記録するとともに、かつ地震時の動的挙動を測定する場合、レンジ設定やオートバランスを如何にするか、などに留意する必要がある。

RIGHT:(境、神原)

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