* 長周期地震動と強震観測 [#vfa64eb1]

 遠くで発生したにもかかわらず,ゆっくりとした大きな揺れが続き,人によっては船酔いのような感覚になる地震動がある。このような地震動を起こす地震は,多くが震源の深さが浅く,規模が大きい地殻内地震であり,長周期地震動と呼ばれるものである。前述の事象は,表面波により厚い堆積層を有する平野がゆっくりと揺らされることにより発生する。

 長周期地震動は先にも述べたとおり,周期数秒の地震波が継続するものであり,このため建築物の固有周期(建築物ごとの揺れやすい周期)が長い石油タンクなどの大型貯蔵施設や長大橋梁(10秒前後),超高層ビル(3〜6秒程度)などは,固有周期と地震動の卓越周期とが一致し,共振のため被害を生じる場合がある。高さが50 m以下の高層建築物や一般の木造建築などの固有周期は1秒以下である。

 長周期地震動により被害を生じた事例としては,現在のような超高層建築物が建設され始める前までは,タンク類の大型貯蔵施設のものが多い。1964年新潟地震では長い周期によりタンク内の液面が大きく揺れるスロッシング(液面動揺)により石油タンクが火災し,1983年日本海中部地震では同じくスロッシングにより石油の溢流がみられた。また,記憶に新しいところでは,2003年十勝沖地震の際に,震源から250 km程度離れた苫小牧の精油所においてスロッシングにより石油タンクで火災が発生した。超高層建築物の被害としては,ゆっくりとした揺れにより制御用ケーブルが損傷し,エレベーターが途中で停止するといった事例が1984年長野県西部地震や2004年紀伊半島沖の地震,2004年新潟県中越地震などでみられた。

 長周期地震動に着目し構築された観測網としては,東京工業大学による関東平野と鳥海 勲教授(当時,福井大学)を中心としたグループによる大阪平野においてのものが代表的である。これらはいずれも長周期帯域を含む広い周期帯域を対象として,速度型強震計によるアレイ観測である。長周期地震動の観測においては,速度型強震計によるものが多く,これは長周期の波動の生成や震源からの伝播過程を明らかにするためであり,地震波の後続位相の記録を必要とするためである。これに対して加速度強震計の場合には,長周期地震動における加速度振幅値は微小のことが多く,この後続位相を十分に記録できないことがある。近年は,記憶メディアの進歩などにより長時間の記録の保存が可能となり,トリガーレベルの値を小さくすることが可能となったこと,さらには通信技術の発展により連続的な観測により長周期地震動の精度は確保出来るようになってきている。

RIGHT:(湯沢)


トップ   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS