東日本大震災における強震観測の教訓

2011年東北地方太平洋沖地震では、北海道から関西に至る広大な地域で強震記録が得られた。多くの観測地点では貴重な強震記録が得られたが、残念ながら種々の理由で、記録を取り逃がした例も見られる。このような事例を検証しておくことは、次の大地震に備えるうえで重要な示唆となると考え、ここにまとめておきたい。

電源の確保

大きな地震の発生時に、停電となることは予想される。このため強震計は電源の供給が絶たれても、数十分から数時間は動作できるよう、バックアップ電源を備えていることが多い。しかしながら、電池交換を怠ったなど保守が不十分だったため、バックアップ電源が機能せず、記録を取り逃がした例も見られた。保守管理の重要性を再認識する必要がある。

また、近年広がりがみられるLANを用いた観測では、LANに接続したセンサー自体は記録機構を持たず、別にデータサーバ(ロガー)を立て、集中的に記録する方式のものもある。この場合は、センサー、データサーバに加え、LANを構成するHUBなどいずれかの電源が断たれると記録を失うことになる。あるいは、電源が確保されていてもネットワークの機能が失われるとデータサーバに記録を送信できなくなり、やはり記録を喪失する。このような例では個々の機器の電源確保とLAN機能の保持が重要である。センサー自体に記録の収録機能を持たせ、記録機能の多重化を図ることも有力である。

多発する余震への備え

2011年東北地方太平洋沖地震では、余震の多さも特筆すべきものであった。本震の発生した3月11日から1週間の間に震度4以上を観測した地震の数は87に及ぶ*1

地震直後はデータの回収がままならないことが多いので、余震を確実に収録するには十分な記録容量が必要となる。例えば100地震の強震記録を収録しようとすると、1記録あたり3分の記録時間と仮定すれば300分、すなわち5時間の容量が必要となる。

少々古い強震計(20年前の強震計もまだ現役で活躍している)では、記憶容量の限界に達し、余震記録のいくつかが失われた例もある。この場合、新しい記録を小さな記録に上書きする機能があれば、本震を含め大振幅の強震記録は確保することができるが、古い記録から上書きする仕組みだと、本震の記録が失われてしまうことになる。

なお、最近の強震計は、通常潤沢な記憶容量を持っているので、それが問題となることは少ない。

記録の保全

2011年東北地方太平洋沖地震は、強大な津波を伴った。強震計も津波による被害を受ける。例えば、岩手県宮古市のある観測対象建物では、本震の約30分後に津波が到来し、建物の2階まで浸水した。ここの強震計は、外部加速度計を複数接続できるタイプで、強震計本体は6階に、外部加速度計が地盤上、1階及び6階に設置されていた。津波によって地盤上と1階の加速度計は冠水し、また接続ケーブルが切断され機能を失ったが、強震記録を収録している強震計自体は6階にあったため後日強震記録を回収することができた。海に近く、標高の低い観測地点では、強震計あるいはデータサーバをなるべく高い位置に設置することが望ましい。

(鹿嶋)

*1 気象庁: 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震

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Last-modified: 2013-05-14 (火) 11:44:32 (3999d)