地震動特性の評価

 地震により引き起こされる地面の揺れ(地震動)は、震源の断層運動により励起された波動が、地殻を構成する岩石などを媒体として伝播し、地表面付近での地形・地盤等による局所的な影響を受けて生じる。故に、強震観測で得られた観測記象には、震源特性、伝播経路特性および局所的な地盤特性(サイト特性)の情報が含まれている。これらの諸特性とその地域性が把握できれば、今後起きるであろう地震動を予測するための重要な手がかりを得ることができ、将来的には高精度な強震動予測によって合理的な地震荷重設定および合理的な構造物耐震化に繋がることが期待される。そこで以下に、強震観測記録から得られる地震動特性の情報について概観する。

震源特性

 地震動特性Aは、震源特性S、伝播経路特性P、サイト特性Gがそれぞれ独立した要因と仮定できるとすればこれらの合積で表現され、その周波数表示は各特性の積で表される。

  Aij(f)=Si(f)×Pij(f)×Gj(f)  (i,jは震源と観測点のインデックス)

複数の地震に対して、複数の観測点の同一の組合せで得られた観測記録を用いて、上記の式を直接に周波数領域でデコンボリュージョン(一般にスペクトルインバージョンと呼ばれる)することで、震源特性ほかのスペクトル特性が得られる。得られた震源スペクトルからは、震源モデルとの対比によりコーナー周波数や応力降下量等のパラメーターが評価される。

 また、より詳細な震源特性の表現として、断層での破壊の進展(震源破壊過程)が観測記録波形をターゲットとしたインバージョンによって求められている。波形インバージョンには、かつては遠地での記録波形が主に用いられていたが、K-NET、KiK-net等の観測網が整備されてからは近地の強震記録が使用される場合も多くなっている。

サイト特性

 震源特性の項に示した通り、震源特性、伝播経路特性、サイト特性の周波数領域でのデコンボリュージョンにより観測記録から平均的なサイト特性が評価できる。

 また、複数の観測地点について震源から観測点までの距離がほとんど同じである場合には、震源特性および伝播特性は同じであると見なせるので、基準となる観測点(例えば、岩盤上にある点)を分母にして観測記録波形のフーリエスペクトル比を求めることで相対的な地盤増幅特性が得られる。サイト特性或いは地盤増幅特性から卓越周期(卓越振動数)を読取ることで、そのサイトでの揺れ易い周期を知ることができる。

 地表と地中のように鉛直方向に異なる深さに設置された観測点の場合には、基準となる観測点(例えば、最下層の地点)を分母にして観測記録波形のフーリエスペクトル比を求めることで伝達特性或いは地盤増幅特性が評価できる。この場合、例えば水平多層地盤構造を仮定して、得られた伝達特性(伝達関数)をターゲットに地盤定数(地盤各層の剛性と減衰)をインバージョンにて求めることにより、地盤増幅特性の算定や非線形化程度の評価等が可能である。

地域特性

 震源特性やサイト特性について様々な地域毎に評価を実施することにより、これらの特性の地域性(地域に応じた特性の差違や有無)が評価できる。例えば、サイトの立地地域に応じた地盤増幅率の大小や地盤卓越周期の長短が把握できる。

地震動特性

 震源特性、伝播経路特性、サイト特性の各要因の他に、観測記録波形から直接に下記の特性が評価できる。

  • 地震動のスペクトル特性:  フーリエスペクトル、応答スペクトル、エネルギースペクトル等を算定することで、地震動の周期特性が確認でき、構造物の応答に対してパワーを持つ周期帯が把握できる。
  • 地震動の非定常スペクトル特性、位相特性: 非定常スペクトルの算定やセンブランス解析により、長周期地震動としての後続波形の有無や振幅の程度、表面波分散性の程度の評価ができる。
  • 地震動の方向性の評価: オービット(粒子軌跡)の分析により、地震動の方向性の有無や強弱を把握できる。
  • 地盤の卓越周期の評価: 地震記録の後続波部分の水平/上下スペクトル比を算定し、これを地盤増幅特性の近似と見做すことで、概略の地盤卓越周期を評価できる。
(栗田、田中、芝)

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Last-modified: 2013-05-14 (火) 10:43:12 (3998d)