強震計の種類と選択方法

 地震計は,地震による地面の動きを計測するものであり,その目的や用途により幾つかの種類がある。代表的なものを以下に示す。

高感度地震計

 主に微小地震の計測に使われており,代表的なものとして震源位置やマグニチュードの決定に用いられている気象庁のものがある。その他に,独立行政法人防災科学技術研究所のHi-net(「高感度地震観測網」)があり,観測された記録は主に,地震活動や予測といった研究に関する用途として使用されている。

広帯域地震計

 長周期帯域の揺れを用いて,主に地震の震源メカニズムの解析や,地球内部の構造に対する研究に使われている。代表的なものとしては,独立行政法人防災科学技術研究所のF-net(「広帯域地震観測網」)などがある。

強震計

 地震による強い揺れを計測するものであり,震度を算出する計測震度計も強震計の一種である。代表的なものとして気象庁の計測震度計があり,その他に自治体などが設置しているものもある。また,独立行政法人防災科学技術研究所のK-NET(「強震ネット」)やKiK-net(「基盤強震ネット」)などもあり,地震発生後の調査や防災対策などに使用されている。

 以降については,広く一般的に,地震時の地面や建築物などの揺れを計測することに使用されている強震計について述べる。

 強震計は地面の変位を計測する変位計や速度を計測する速度計に比べて,地震計の振り子の長さを短くすることが出来ることから計測器自体のサイズを小さく,また,費用を抑えられる加速度計が多く用いられている。この加速度計は,振り子の揺れ幅を電子回路により小さく制御することから,電磁式加速度計(フィードバックあるいはサーボ型地震計)と呼ばれている。近年は,地震動の周期が長い波を対象とした速度を検出するサーボ型速度計も開発され,観測の幅が広がっている。  強震計の歴史としては,1931年に末広恭二教授(当時,東京大学地震研究所)がアメリカにおいてその原理を提案し,これを受け日本に先駆けアメリカにおいて実用化がされた。その後,現在の耐震設計においも参照される1940年インペリアルバレー地震のエルセントロ波や1952年ケーンカウンティ地震のタフト波などが観測された。わが国では,戦後の1948年の福井地震を契機に,当時の研究者たちによりSMAC型強震計(Strong Motion Accelerometer Committeeの略称)が開発され,1964年新潟地震などの被害地震による強震記録を観測した。その後も,1968年十勝沖地震の際の八戸での記録など,耐震設計に活用されるような記録を観測している。しかしながら,当時の強震計は非常に高価であり,このため設置される場所には限りがあった。ここで,強震計の考えに転記が訪れたのが,「震災の帯」と呼ばれ神戸市域に甚大な被害をもたらした1995年兵庫県南部地震である。当時,関西には,官民学の各機関の有史による関西地震観測研究協議会が組織されてはいたものの,「震災の帯」の中での強震観測記録が十分とは言えず,この地域がどのような地震動に見舞われたのかは分からなかった。この状況に鑑み,気象庁をはじめとする省庁,研究機関は,日本全国に地震観測点及び震度観測点を増強あるいは新たに配置し,世界有数の密度を持った強震観測網が整えられている。

 強震計は地面の揺れを計測する部位(以降,「検出部」と呼ぶ。)と,測定されたものをディジタル化し記録する部位(以降,「記録部」と呼ぶ。)に分類することができる。  検出部は大きく分けて2種類あり,それらは以下となる。

  1.  振り子を用いたもの
  2.  半導体技術を用いたもの

 一つ目の振り子を用いたものは,先に述べたとおりサーボ型地震計がある。これは,2本のコイルを巻いたおもりが動くことにより検出コイルに電流が流れ,もう一本の駆動コイルにこの電流と逆の電流を流すことでおもりの動きを止める。コイルに流れる電流が地面の動きとなり,おもりがほとんど動かないことから大きな震動を観測することが可能である。代表的なものとして,独立行政法人防災科学技術研究所が運用しているK-NETやKiK-neなどがあり,地震計単体の価格としては数十万〜数百万となっている。  二つ目の半導体技術を用いたものは,MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれ,地震計以外にも自動車のエアバックやエレベータの制御,家庭用ゲーム機のリモコンや携帯電話にも採用されている。MEMS型地震計は,一般的に測定範囲が約20 G(G=980 cm/s^2)以下の低G加速度センサ,それ以上の測定範囲のものを高G加速度センサと呼ばれている。低G加速度センサは重力・傾きの検知や人の動きの検知に適しており,高G加速度センサは主に衝撃の検知に使われている。代表的なものとして,価格が数千から数万と安価であることから多数のところに設置されるようなIT地震計がある。  振り子を用いたものと半導体技術を用いたものの違いとしては,強震計という名に矛盾はするが,大局的には微小な揺れ(最小分解能)を感知することが可能かどうかということで,大きな揺れについては差がないと言える。

 記録部は,一般的には測定部位からの信号をA/D変換(アナログ信号をディジタル信号へ変換)し,ディジタルメモリなどの記録媒体に保存する。また,地震波の到達前の揺れを蓄積する遅延回路により,大きな揺れのS波到達前のP波についても記録することが可能である。さらに,必要に応じて観測された振動から計測震度やSI値(「地震によって建物がどれだけ大きく揺れるか」を数値化した値。)を計算することが可能である。最近では先にふれたIT地震計のように,個々の地震計をLAN(ローカルネットワーク)に接続することにより観測網の1つとし,建物の複数階での計測,あるいは橋梁の両端及び途中での計測などと自由度が広がっている。

 最後に強震計の選択としては,どのような揺れを対象とするかということが重大であると考えられる。どのような揺れというのは,先にも述べた通り,微小な揺れについても観測する必要があるかどうかということであり,微小な揺れから大きな揺れまでを観測する場合には振り子を用いた検出部が必要となり,大きな揺れだけでよい場合には半導体技術によるMEMSでよいと言える。強震計の価格は,大部分が検出部の価格に依存するといっても過言ではないことから,どこまで微小な揺れを対象とするかにより検出器が決まると考えられる。また,どのような場所,屋外か,建築物内なのか,観測形体,強震計の数などの使用目的を考えることが重要であると考えられる。

(湯沢、佐々木)

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Last-modified: 2013-05-14 (火) 10:49:35 (3997d)