強震観測のコスト

強震観測のコストを論ずるのはなかなか難しい。強震計や加速度計はカタログ製品であるが、定常的に製造できるほどの需要はなく、受注生産に近い。このためか、定価が示されていることは少ない。

また、強震計や加速度計の価格は、基本的に性能とのトレードオフである。高性能のものほどコストは高くなり、コストの低いものはどこか性能面での割り切りが必要となる。性能とは、観測システムとして得られる記録の品質の高さ、そして信頼性である。ここでは、そのことを心に留めながら目安となる費用を示せればと思う。

初期費用

強震観測を始めるには、強震計や加速度計、周辺機器を購入し、対象とする建物に設置しなければならない。

機器費

基本的にこの部分が、観測の質を決める。大まかな経費を掴むため、基本的な観測として建物の基部と上部に各々3成分のセンサーを置くと想定する。

  • 高性能なシステム

現状で最も高性能で信頼性のある強震計を考えると、6ch対応の本体価格はセンサー抜きで200万円を超える。やはり高性能なサーボ型センサーの価格は50万円を超える。本体1台、センサー2台の構成では300万円を超え、付属品などを考慮すると350万円近くになるであろう。

  • 廉価なシステム

いわゆるMEMS(半導体センサー)を用いた強震計は種々提案されているが、建物の強震観測として実用的なものは、1台20万円程度である。通常、記録装置(ロガー)は、別途設置する必要があり、PCを使う場合と専用の機器を使う場合がある。更に、データ転送や制御にLANを使うことが一般的で、専用のLANを敷設するにはそのための機器が必要である。また停電時に記録を取れるようにするにはこれらの機器のバックアップ電源が必要となる。結局条件によって50万円から100万円近くの機器費となる。

設置工事費

最初に強震計や必要な機器を設置するための作業や工事、場合によっては配線工事など必要になる。ある程度長期的な観測を行う場合は、観測機器をきちんと固定する必要があるし、複数のセンサーと観測装置間の配線が必要となる。また、場合によっては電源や通信線の引き込みも必要になるかもしれない。作業や工事の量や質によるが、専門の業者に発注するならそれなりの費用が発生する。

維持費

強震観測はある程度長期的に行う必要があり、そのためには観測を維持するための費用が必要となる。観測の形態によっては不要なものもあるであろうが、以下に考慮すべき費用を列挙する。

電力料金

強震計は電源を必要とし、供給元をたどれば商用電源である。このため消費電力量に応じた電力料金が発生する。一般的な強震計の消費電力はそれ程大きなものではなく、数十Whであり、電力料金は年間数千円のオーダーである。

通信費

強震計を遠隔で管理する場合は何らかの通信手段が必要となり、そのための費用が生じる。遠隔管理でできることは、強震計の状態確認、設定変更、強震記録の回収などである。従来は固定電話回線を引くことが多かったが、近年では携帯データ端末などの利用も進んでいる。回線の種類や通信の頻度によるが、3万円〜6万円/年の費用が必要となる。

保守費

強震計は24時間365日稼働すべき機器であり、地震時に確実に動作することが求められる。このため常時良好な状態を保つ必要があり、定期的な専門的な保守点検が欠かせない。できれば1年に1度、少なくとも数年に1度は業者による定期点検を行うことが望ましい。主な費用は技術者の人件費(遠地の場合は加えて旅費)であり、バッテリーの交換などの消耗品的な費用が定期的に必要となる。

建物の利用料金

観測機器が建物の一定の面積を占めることになるので、場合によっては、その占有面積などに応じた利用料を支払うこともある。

(鹿嶋)

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Last-modified: 2013-09-12 (木) 17:19:13 (3877d)