観測パラメータの設定

トリガ条件

通常強震計は、地震の揺れを感知して記録を開始し、地震の揺れが終了したら記録を終了する、トリガ方式の収録が行われることが多い。この場合、開始や終了を制御するいくつかのパラメータ(トリガ条件)が必要となり、観測状況に合わせて設定する必要がある。

最近の強震計では、大容量の記録媒体が容易に使える状況から、強震計本体の記憶容量の制約からトリガ条件の設定に神経を使う必要性も薄れている。しかし、電話回線など低速の通信手段を用いて強震記録の回収を行っている場合などは、多量・大容量の記録ファイルはやはり負担になる。トリガ条件は、強震計の設置環境のみならず、保守の状況なども勘案して設定することになる。

トリガレベル

記録を開始する揺れの大きさである。加速度を計測しているならば加速度で指定する。小さな値を指定すれば小さな振幅の記録から収録できるが、ノイズなどによる誤動作の可能性も高くなる。建物内の観測では 1 cm/s^2 から 10 cm/s^2 程度が目安であろう。地中に埋設した加速度計など静かな環境なら 1 cm/s^2 未満の設定例もある。通常は記録開始のトリガレベルと記録終了のトリガレベルは共通だが、別々に設定できる強震計もある。

トリガ成分(チャネル)

強震計は3成分の加速度を計測しているので、どの成分(チャネル)でトリガを掛けるか選択する必要がある。通常、複数成分を選択でき、そのORかANDを指定できる場合もある。ORなら複数成分のいずれかが、ANDなら複数成分のすべてがトリガレベルを超えたら収録を開始する。また、建物内など複数の加速度計を接続している場合、強震計によっては、トリガ成分として建物の基礎部と頂部の測定成分を組み合わせて指定して、建物の揺れが収まるまで収録を続ける工夫もできる。

プレトリガ(遅延)時間

トリガ方式では、地震記録の立ち上がりを記録できないので、通常この方式の強震計には、トリガを感知した時刻から遡って、記録を収録する機構が組み込まれている。遡る時間長をプレトリガ時間、あるいは遅延時間と呼ぶ。古い強震計では10秒程度しか設定できないなどの制約があったが、最近の強震計では自在に設定できるので、30秒以上設定するするのが望ましい。ちなみにK-NETの記録の遅延時間は15秒である。

ポストトリガ時間

記録の終了の判定は、一定時間トリガレベルを上回らない状態が続くことを条件としている場合が多い。この判定時間をポストトリガ時間、あるいは単に収録時間と呼んでいる。加速度を収録している場合、加速度は収まってもさらに周期の長い振動が継続している場合も多い。地震の揺れが収まるまでの記録を確実に収録するためにも、ポストトリガ時間は長めに設定しておくべきである。短くても60秒、できれば120秒程度以上設定することが望ましい。

収録時間

ひとつの強震記録を収録する場合、その収録時間は、前述のようにトリガ判定と連動させるものと、固定の場合がある。トリガ判定と連動する場合は、収録時間はポストトリガ時間として設定する。固定の場合は収録時間を設定しなければならない。ちなみに、50年以上前に開発されたSMAC型の強震計は3分(180秒)であった。通常2分から3分で問題ないが、長周期地震動が期待される場合、長周期構造物で揺れの継続時間が長いと考えられる場合などはより長くする必要がある。

固定収録時間の場合でも、地震動が続いていて次の記録として収録され、その間の連続性が保証されていれば、処理段階でつなぎ合わせることができるので、収録時間の設定にそれほど神経質になる必要はない。

収録時間を決めるもう一つの要因は、強震計の記憶容量とデータ回収の頻度である。最近の強震計は安価になった汎用のスタティックメモリ(CFカードやSDカード)を用いているので、記憶容量が問題となることは少ない。またデータ回収を頻繁に行えるのであれば、常に記憶容量に余裕のある状態を保つことができる。この場合は収録時間を長めに設定することをお勧めする。

振幅範囲

強震計の振幅範囲(計測できる最大の加速度)は、強震計に固有で、変更できるものは少ないが、一つの重要な観測パラメータである。強震観測が始まった当初は1G(980cm/s^2)が目安だったが、1978年の宮城県沖地震では、建物の9階で1Gを超える加速度が得られた。建物の応答としては2G程度が振幅範囲の目安となるだろう。 なお近年、K-NETやKiK-netなどの地盤上の観測で1Gを超える大加速度の強震記録がしばしば得られているが、これらは局地的な要因による極短周期成分の影響によることが多い。そのような設置条件では特別は配慮が必要であろう。

サンプリング周波数

強震計は、加速度などの時間的に連続な信号を等間隔で数値化して記録するが、その数値化の間隔を1秒間のサンプル数で表したのがサンプリング周波数である。あるいはサンプリング間隔を直接表すことも多く、サンプリング周波数の逆数となる。 強震計によってはサンプリング周波数を設定でき、通常50Hzから200Hz程度の値とする。一般には100Hzが多いが、長周期構造物など短周期(高周波数)の影響が少ない場合は50 Hzなどと低いサンプリング周波数に、逆に短周期の影響を詳細に分析したい場合などは200 Hzなどと高いサンプリング周波数に設定することも考えられる。もちろん、サンプリング周波数を低くすれば強震記録のファイルサイズは小さく、サンプリング周波数を高くすれば大きくなるので、記憶容量との兼ね合いも考慮する必要がある。

(鹿嶋、田中)

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Last-modified: 2013-05-29 (水) 10:34:09 (3983d)